進み始めると、やはり道を大幅にずれていた事が段々分かってきたが、かすかに初めの港、堤防が見えたのだ。
やっと希望が湧いて、ここで全力を出し切るしかないと思った。「弟の名前~~~!」「弟の名前~~~!」
痛みを堪えつつ歩きながら「っシャー!」「痛てー!」と言いながら進んでいった。
そうすると、「なに~!」「どこや~!!!?」「ケガしちょっとや!!!?」と返事が来た!
やっと、やっと声が聞こえた!「両足首を痛めてる!!!」「どこにおる~~~~~!!!?」
「ここおるよ~~~!!!」
これで助かると思った。ただし、ここから地上まで結構な距離があるようで、歩き始めたのだが
登るより下るほうが足に響くらしく。あともう少しながらまだまだ時間を要すように感じた。
ここからは、もう余力を残すことも無いため、歩くというより、お尻を地につけてずり落ちるように
少しずつ滑って下っていった。
登って来た時に学んだ事を総動員して、危ない方向は避けて道を選びながら
あとはもうズボンが破けようが引っ掛かろうがもう無理やり降りて行った。
しかし、もう体力が限界だったので途中途中で、大声で「おるか~~~!!!?」「そこにおれよ~~~!!!」
「分かった~!!!」
「声をずっと聞かしてくれ~~~!!!」「降りる道が分からんから!!!」と
叫びながら降りて行った。人は人の声を聴くだけで元気、気力が増すのだ。こんなに身に染みたことは無い。
ありがとう!弟よ。
暫くすると、弟の他に人の声がして、弟と話している声が聞こえた。
もう近いのだ、弟が海上保安庁の人に電話している様子も聞こえた。
「携帯の電池が残り2%なので、そろそろ電話が切れるかもしれません。」と話し声も聞こえた。
普段、一緒に釣りに行く時などは、常におんぶにだっこで、携帯の電池は切れんようにしろだの
免許証持ったか、忘れ物ないかなど、おれが世話を焼くことが多かったが、
それが今まで電池が切れないようにコントロールして、海上保安庁の人とやり取りを聞くと
今まで世話を焼きすぎだったんだなと、頼もしく思った。
そのうち、「消防の人があともう少しで来るから、待っちょきない!」
「分かった!!!」と返事しつつ、頭の中ではレスキューが来てもここにいたら
まだどうしようも無いなと思いながら、少しずつ少しずつ降りていった。
声も近づき、海の流れも隙間から見える位置になった頃、ついに難所がやってきた。
いきなり崖のようになっており、高さはそこまで無いが1mちょっと2m近くあるのではないか
という斜面に差し掛かってしまった。足が普通なら木にぶら下がり、少し飛べばどうにかなる可能性もあるのだが
体力も限界で、痛みもある今の状況では、どうにもならず他の道を探そうにも
少し上がり迂回する必要があったため、体力も限界で、また道が分からなくなる心配もあったので
ここでうなだれて待つことしか出来なかった。
すると弟から「今どんな感じーーー!!!?」
「崖に差し掛かって、もう動けん!!!」
「分かった!!消防があと30分ぐらいで来るから、待っちょきない!」との返事。
「分かった!!」と返事したが、やはり頭の中ではここに来ても助けに入れんだろうなと思ったが
もう動けなかったので、もう待つことにした。
暫くすると、弟と話していたおじさんが「今、どの辺ですか!!?」「声を聞かしてください!」と聞いてきた。
「ここです!」「崖の前にいます!」と返事すると
「分かりました!そこを動かんどってください!」「様子を見に行きます!!」
「分かりました!!!ありがとうございます!!!」
ここで、ガクッと力が抜けた。数分後、おじさんがやって来た。
「大丈夫ですか!!!?」「ここは急なので一緒に降りると2人とも落ちてしまうので消防が来るのを待ってください!」
「荷物があれば持って降りておきます」と言ってくれたので
磯靴バッグだけを持っていってもらう事にした。
背負っているリュックも言われたが、「これはショック吸収に使えるのでそのままで良いです」と返答し
「分かりました。では水とか要りませんか?」と聞かれたので
「弟が飲み物類を持っているはずなので伝えてください!」と答えて、降りて行ってもらった。
弟から「飲み物は何がいい!!!?」
「何でも良いけど、ソルティライチが残ってたらそれが良い!!!」
「分かった持っていく!」
おじさんが、「場所は分かったのでわたしが持っていきます。危ないから」
弟「分かりました。お願いします。」
少しすると、ペットボトルを持っておじさんが来てくれた。
待望の水分だ。ここで、溢れていたものが崩壊した。
「すみません、、、ありがとうございます、、、」ついに助かると思って涙が出てきた。
「いやいや大丈夫よ、安全な所で待っててくださいね」
「分かりました、、、ありがとうございます、、、」
ソルティライチを半分ぐらい一気にがぶ飲みした。
水分補給していると、一気に気力が沸いてきて。
少し前から、どうしようもないぐらいの数のやぶ蚊がうようよしており、
ちょこちょこライターで枯れ葉に火をつけて、煙で追い払っていた。
水分を取っておかげで、このやぶ蚊に気が回るぐらいに気力が戻っていた。
ここで、もう一気に降りて行ってやろうとまた決意した。
弟に「下までどのくらいでたどり着けるか、聞いてみて!!」
「なんて!!!?」
「ここから普通に歩いて何分ぐらい掛かるか聞いてみて!!」
おじさん曰く「慣れてる私なら3分ぐらいです!!でも斜面が急で危ないですよ!!」と返答してくれた。
「分かりました!!!」
少しずつ行けば30分ほどで降りれるだろうと判断した。
レスキューが来ても木を切り倒しながらじゃないと、助けに来れないことも聞いていたし、
折角のこの島をおれのために傷つかせるわけにはいかないとも思ったので
もう降りるしかないと、気合をいれた。
心配を掛けさせまいと、歩くたびに「ヨッシャー!!!!」「ウラァァぁ!!!」
と掛け声を発しながら進んでいった。
「え!降りてきてるんですか!?」との声。
「はいっ!!30分ぐらい掛ければ降りれます!!」
「分かりました!そしたら、こっちも準備をします!」との声。
少しすると二人の姿が見えてきたので「見えました!!!ここからそちらが見えます!!!」
「え!?どこですか、あー見えます。」
最後の最後で、すこし離れた溝があるようで
「ちょっと待ってください!梯子を用意します!」
と一本、さらにもう一本を立てかけてくれた。
もう、じんわりと感極まってきていたのだが、最後の最後で
足を滑らすわけには行かないので、ぐっと堪えて待っていた。
そして、準備が整ってどこかに掴まる必要があったが、
これまで自分ひとりで、木々の丈夫さを確かめながら来ていたが
おじさんから「大丈夫!そこは大丈夫!その木は大丈夫!」と言ってくれた
久しぶりに人から勇気をもらえる事が嬉しかった。
そして、無事に地上に降りる事が出来た。生きて帰る事が出来た。
こんなにも、気力を振り絞ったことは久しぶりだった。いや、一日だけで考えたら絶対に初めてだ。
ありがとうございました!!!!!
今まで少しばかりは息を整えながら、歩いていたので、盛大に呼吸を乱すように、ずっと深呼吸をした。
あとは、さっきもらったソルティライチを道中で落としていたようで
コカ・コーラゼロをもらってがぶ飲みした。
少し意識が戻ってきたので、おじさんに聞いてみた。
「近くの漁師の方ですか?名前をお聞きしていいですか?」ゼーゼーゼー
「うん、ずっとこの島で育って漁師をしてる。」「名前は????」苗字だけ教えてくれた。
「????さんですね、分かりました。怪我が治ったら挨拶にまた来ます!」
「いやいや、気にしなくてもいいよ」
「??駅でも見知らぬ子供が事故で、肘の骨が飛び出す大けがをしている所に遭遇して助けたこともあるし」
「そういう星回りなのかもしれん」
「そうなんですか、命の恩人なのです。」ゼーゼー
おじさん「じゃあ、仕事が残ってるから、これで」
「はい!本当にありがとうございました」これが釣りをしに来たはずが、遭難を経験することなった記録である。
そこから、さらに30分ほどしてレスキューボートが到着し、救助隊員と両親も一緒に乗ってきた。